顎関節症の検査方法と治療方法について

「自分が顎関節症かどうか知るには,どのような検査をするの?」

「顎関節症の治療方法や,セルフケアについて知りたい」

顎関節症は顎関節の骨とその周りの組織に起きる障害をとりまとめた病名であり,主症状は,疼痛障害・開口障害・関節雑音の3つです。特定の症状や状態を指すものではなく,3つの症状のうちひとつだけが出現する場合や,いくつかが組み合わさって出現する場合もあります。そのため,自分がどのタイプの顎関節症か,どの治療法が自分に合っているのかについて知るためには,検査に基づく正確な診断が重要です。

この記事では,「噛み合わせが悪いと,顎関節症は治らないの?」「自分でもできるセルフケアについて知りたい」という方に向けて,顎関節症の検査や治し方,セルフケアのポイントやなどについて,日本顎関節学会専門医が解説していきます。

顎関節症の症状や原因,やってはいけないことについて知りたい方は,「顎関節症かなと思ったときに知っておきたいこと」の記事も併せて参考にしてください。

顎関節症とは

顎関節症とは,あごの関節やその周囲の軟骨や靭帯,また口を開け閉めする筋肉に生じる,痛み・開口障害・雑音を主な症状とする傷害の包括的診断名である,定義されています。

つまり,特定の病気を指すのではなく,症状もそれが出現する部位も人それぞれ異なるのです。そのため,自分がどのタイプの顎関節症なのかをしっかりと検査して,どの治療が自分に合っているかを見極めることがとても重要です。

また顎関節症の発症には,生活習慣や癖も大きく関わってきます。そのため,軽度の症状であれば生活習慣の見直しやセルフケアで治療することも可能かもしれません。

顎関節症の検査方法

顎関節症かどうかや,タイプの診断のためには複数の検査方法を組み合わせて行います。

問診

患者様からのお話を詳しく聞かせていただきます。痛みの程度や経過,発生頻度や日常生活のどのタイミングで痛みを感じるかなどを教えていただきます。症状は今回が初めてなのか,これまで何度か経験したことがあるかも重要です。日々の心配事や,生活リズムの変化などがきっかけになることもありますので,些細な事でもお聞かせください。

顎の動きの検査,筋肉の触診,痛みの部位の特定

お口がどの程度開くのかを調べます。開きづらい場合には,開かない原因や痛み・引っかかりの場所を特定します。開け閉めの際に音が鳴るときは,音の種類や頻度を触診で確認します。

またあごの関節周囲や筋肉を触診して痛みや張りの程度を確かめます。あごを動かす筋肉は,咬筋・側頭筋・顎二腹筋・胸鎖乳突筋・内側翼突筋・外側翼突筋などさまざまあるため,どこにストレスがかかっているかをしっかりと確認していきます。

心理検査

顎関節症は身体だけでなく,精神的な不調も影響すると言われています。そのため,必要な場合はストレスチェックや心理テストを行うこともあります。

歯科医院で心理テストと聞くと意外かもしれませんが,当院で参考にしているDC/TMDという国際的に使用される顎関節症の診断基準でも,身体的評価と心理的評価の項目が設定されています。今後,日本でもっとスタンダードになるかもしれません。

レントゲン検査

パノラマレントゲンと呼ばれる歯や顎関節,あごの骨などが確認できるX線を撮影します。顎関節の位置や形態だけでなく,歯の異常も検出することができるため,痛みの原因が歯にあるかどうかも判断できます。またパノラマ四分割という撮影方法では,口の開け閉めに伴う顎関節の移動量も確認できます。このように複数の撮影方法を使い分けることもあります。

CT検査

上記のレントゲン検査はあくまでも2次元の撮影のため,顎関節の詳細な構造を見るためにCTスキャンを使用して3次元的に評価を行います。CT検査では主に,骨の異常,関節内の異常構造など,硬組織の診断が可能です。

左右の顎関節を同時に撮影できる歯科用CTはまだあまり普及していません。当院の歯科用CTでは一回の照射で撮影可能なため,患者様のご負担を減らすことができます。

 MRI検査

MRIでは,顎関節と周囲の組織(軟骨・筋肉・靭帯・滑液など)の詳細な評価ができます。骨の確認もできますが,MRIは主に軟組織の検出を得意としています。CTでは確認が難しい,炎症の有無や軟骨の位置異常も調べることができます。

歯科医院でMRIを完備しているところはほとんどありません。大学病院や専門の撮影機関などを受診していただく必要があります。

顎関節症に対する治療法

顎関節症の治し方や症状緩和の方法には以下の通り,いくつかの種類があります。

生活指導

生活指導は,顎関節症に対して行われる初期治療アプローチの一つです。顎関節症の発症には生活習慣が大きく関わっていると考えられるため,ほぼすべての患者様にお伝えしています。

日常生活での食事や口の動きに関する適切な方法や習慣を意識することで,症状の改善を図ります。例えば,あくびや噛みしめを避ける,硬い食べ物を控える,ストレスを軽減するなどのアドバイスが含まれます。

理学療法・運動療法

器具を使った手法や運動を利用して症状の改善を目指す方法です。代表的なものは冷却/温熱,電気刺激療,超短波を使用した方法が挙げられます。また歯科医師や患者様によるマッサージやストレッチ,他にもマニピュレーションという関節のズレや筋肉の緊張を和らげる方法もあります。

薬物療法

薬物療法は,痛みや炎症を軽減するために薬剤を使用する治療法です。消炎鎮痛薬(痛み止め)や筋弛緩薬(筋肉の緊張をほぐす薬)が処方されることがあります。顎関節症に伴う痛みや筋肉の緊張を抑え,快適性を向上させる目的があります。ただし薬物療法は対症療法としての位置づけが強く,他の治療法と併用されることが多いです。

アプライアンス療法

アプライアンス療法は,スプリント(マウスピース)を使用して噛み合わせのバランスと整える治療法です。基本的には就寝中の歯ぎしりに対して,顎関節や筋肉の負担を軽減するために適応されますが,噛み合わせをリセットする目的で日中にも装着していただくこともあります。

噛み合わせ治療

原則,顎関節症の初期治療として,噛み合わせ治療が選択されることはありません。
前の記事にもあるように,顎関節症は様々な要因によって引き起こされるため,噛み合わせの悪さだけが原因ではないからです。基本的には,歯を削るなどの元に戻せない治療を行うことはなく,体の負担が少ない治療法から選択されます。

ただし,歯の治療などがきっかけで顎関節症が発症した場合などは噛み合わせ治療が推奨されることもあります。

これらの治療方法は,顎関節症の症状の程度や原因によって異なります。正確な診断と適切な治療を受けることで,症状を緩和し,速やかに日常生活の質を向上させることが期待できます。早期に歯科医院を受診し,可能であれば専門医に相談することで,最適な治療法を見つけることが重要です。

自宅でできる顎関節症のセルフケアについて

セルフケアは顎関節症の症状改善にとても有効なアプローチです。顎関節症のセルフケアについての重要なポイントをご紹介します。

TCHを意識する

TCH(Teeth Contacting Habit : 歯列接触癖)とは,歯ぎしりや噛みしめの習慣を指します。普段,リラックスしたときは上下の歯にはすき間が空いていますが,上下の歯が接触していると筋肉の疲労や関節の負担に繋がります。特にスマホやパソコンを操作しているときなど,うつむいて集中しているときに注意が必要です。

開口訓練

開口障害(口の開け閉めの動きが制限されている状態)が起きているときに行います。あごの関節の可動域を広げたり,筋肉をストレッチしたりする効果があります。意識的に大きく開け閉めする,指を使って軽く口を押し広げるなどの訓練を行います。痛みを感じる場合は逆効果で,無理のない範囲で行うことがポイントです。

筋肉をほぐす

あご周囲の筋肉の緊張や炎症による症状が出ている際に有効です。マッサージやストレッチを行い,筋肉をほぐして血行を促進することで,症状を緩和させます。温かいタオルを当てたり,お風呂上りに行ったりすることで,より効果的にほぐすことができます。

生活習慣を見直す

骨格や噛み合わせだけでなく,生活習慣が顎関節症の発症に大きく影響すると考えられています。あごに負担をかける動作(硬い食べ物を噛む,あくびをする,頬杖やうつ伏せ寝)を避けるなど,日常生活での注意が重要です。また過度のストレスを溜め込まないように心掛けることや,十分な睡眠や食事を意識することも,症状の改善に役立つことがあります。

セルフケアは顎関節症の症状軽減や再発防止にとても有効ですが,急性期(発症して間もないときや,痛みや症状が強いとき)には逆効果となることもあります。自分で治すのではなく,専門家に相談して適切な指示を仰ぐことで,症状の改善が期待できます。

まとめ

いかがでしょうか。今回は顎関節症の検査や治療法,セルフケアのポイントについて解説しました。

ちなみにこの記事を書いた日本顎関節学会専門医の当院院長でも,難しい処置が続いた際には噛みしめによって顎関節症の症状が出ることがあります。そのくらい日常生活の影響が大きいことがお分かりいただけると思います。

また,生活習慣の見直しやセルフケアは症状の緩和や予防には有効ですが,無理なストレッチやマッサージは悪化に繋がる可能性もあります。症状が強いときや長く続く場合には,自分で治そうとするのではなく,お気軽に専門家にご相談ください。

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