「自分の歯並びは、矯正治療とセラミック矯正のどちらが最適なの?」
口元にコンプレックスがある方で、気になる部分だけ治療したいと考えた場合、ネットで調べるとセラミック矯正という治療が選択肢として挙がってきます。
審美的なセラミックを被せる治療法は以前から歯科医院でよく行われていますが、『セラミック矯正』という単語は比較的新しいものになります。セラミック矯正について調べると、『後悔』『やらない方が良い』など、ネガティブな記事や体験談も多く見られ、不安を感じる方もいらっしゃると思います。
また過去にセラミック矯正を受けた経験がある方々の中にも、セラミックや歯のトラブルが原因で後悔していたり、リカバリー(再治療)を検討している方もいらっしゃるかもしれません。
セラミック矯正はメリットも存在する反面、合わない場合は無理な治療を進めることで後悔する原因になってしまいます。
この記事では、「セラミック矯正が自分に合っているかどうかを知りたい」という方に向けて、セラミック矯正がおススメされる状況や、その特長と注意点について歯科医師が詳しく解説していきます。
目次
セラミック矯正とは
セラミック矯正とは、歯の形態や歯並びを美しく整え、笑顔の印象や横顔のバランスを整えるためにご自身の歯にセラミックを装着する治療法です。通常の矯正治療とは異なり、歯を動かす装置を使用しないため、厳密には矯正治療には分類されません。歯を動かす代わりに「歯を削って人工物(セラミック)を装着する」必要があるため、『審美補綴治療』や『美容治療』の一環として位置づけられることもあるようです。
セラミック矯正には通常の矯正治療にはない、以下のようなメリットがあります。
- 治療期間が短い
- 矯正装置が必要ない
- 後戻りが起こらない(少ない)
- 歯の形態や色味も改善することができる
詳細は前回の記事(セラミック矯正について 通常の矯正治療との違い、メリットとデメリットを解説)をご参考にしてください。
このような特長を持つセラミック矯正ですが、もちろんデメリットも存在します。また、お口の中の状況によってはセラミック矯正よりも通常の矯正治療が最適な場合もあります。
セラミック矯正が適している方はどのような特徴があるのでしょうか。
セラミック矯正がおススメな方
セラミック矯正が適していると考えられるお悩みの特徴と、その場合の注意点をご紹介します。
短期間で治療を終わらせたい方
通常の矯正治療では、歯を動かすというプロセスが必要なため、治療には長い期間がかかることがあります。治療前の歯並びによって異なりますが、短くても半年程度、長い場合は治療が完了するまで2〜3年かかることも珍しくありません。
一方、セラミック矯正では、必要な治療箇所によって期間が前後しますが、少ない本数の場合には1〜2ヶ月で治療を終えることも可能です。セラミック装着の前に虫歯や歯周病(歯肉炎)の治療が必要な場合でも、通常は3ヶ月〜半年程度で完了するため、1年以上の期間が必要となることはほとんどありません。
生活スタイルやライフイベントによって、あまり長い治療期間をかけることができず、気になる部分だけの治療を行いたい方には、セラミック矯正がおススメです。
注意点として、通常の矯正治療と比較して治療期間が短いとはいっても、多数の虫歯がある場合や、根の炎症が進行して根管治療に時間がかかる場合など、予想よりも長い期間が必要になることもあります。また、セラミック矯正ではなく通常の矯正治療を選択することで、歯の切削や神経の除去を回避できる可能性があることも考慮しましょう。削った歯は元には戻らないので、治療期間や通院回数と、歯の健康と、どちらを優先するかをしっかりと考えましょう。
気になる場所や治療箇所が少ない方
ご自身の歯について気になっている本数が限られている場合、歯並び全体の治療は必要なく、部分的な治療のみで悩みを解決できる場合があります。例えば、「前歯4本の歯並びと色味だけ改善したい」ときなど、セラミック矯正では気になっている部分をピンポイントで治すことができます。
注意点としては、患者様ご自身が特定の歯のみの治療を希望されている場合でも、歯科医師からは全体の治療が必要だと判断されることもあります。少ない本数で無理に治療を進めることで、左右の見た目や、歯の大きさのバランスが乱れてしまう可能性もあるため、事前に適切な検査と相談を行い、歯科医師と患者様とで治療後のイメージについて共有を行うことが重要です。
また、費用についても気を付ける必要があります。セラミック治療は通常1本 7万円〜15万円程度であり、矯正治療は一般的に60万円〜100万円程度と言われています。6本のセラミック装着を行う場合では、セラミック矯正の方が通常の矯正治療よりも費用が高くなってしまう可能性もあります。治療費についても、見積などを提示してもらい、治療期間と併せて事前に確認を取る必要があるでしょう。
既に治療された歯が多い方、元々の歯の形態や色味が悪い方
過去の虫歯の治療で詰め物やかぶせ物が多数装着されている場合、矯正治療で歯並びを整えただけでは、古い詰め物やかぶせ物の色味が目立ってしまうことがあります。この場合、矯正治療後に詰め物やかぶせ物の交換が必要で、治療期間が長引いたり、費用がかさんでしまうことがあります。
また、元々の歯の形態や色味が望ましくない場合も考慮が必要です。特に生まれつき歯のサイズが小さい『矮小歯(わいしょうし)』の状態では、通常の矯正治療だけでは理想的な歯の大きさにすることができません。セラミックを装着することで、他の歯との大きさのバランスを整え、より美しい笑顔をデザインすることが可能です。
注意点としては、このようなケースでも、通常の矯正治療とセラミック治療を組み合わせることで、より審美的な結果を得られることが多くあります。セラミック矯正のみでは、健康な歯を削る必要があったり、治療計画に無理が生じてしまう可能性があります。また、歯並びの悪さから虫歯になってしまっている場合には、根本的な解決にならないことも留意すべきです。
既にセラミックが装着されているけど満足していない方
過去の事故や虫歯治療、以前行ったセラミック矯正によってセラミック治療を受けた経験があるという方々、次のような症状でお悩みではないでしょうか?
- 自分の歯とセラミックの色味が合っていない気がする
- セラミックが欠けてしまって、形が不自然になった
- 歯茎の位置が変化して、セラミックと歯茎の間が黒ずんできた
- セラミックを装着した歯を磨くと、歯茎から血が出ることがある
- 歯の根元がときどき腫れる、押すと痛みを感じる
このような症状がある場合は、通常の矯正治療では解決できないため、セラミックを作り直す必要があるかもしれません。さらに、歯肉炎や根尖病巣(根の先の炎症)は放置することで進行し、歯の寿命を縮めてしまい、後悔することになってしまいます。
セラミックの再治療に合わせて、セラミック矯正や通常の矯正治療を併用することで、気になっていたところを解決し、バランスのとれた美しい口元を演出できるようになります。
注意点としては、セラミックのリカバリー(再治療)には、再根管治療(神経を取った歯の再治療)や土台の修正、歯肉ライン(歯茎の形や高さ)の調整、仮歯の調整など、とても複雑で難しいステップが必要になるため、歯科医院の選択が重要です。治療する歯科医院をしっかり選ばないと、理想の結果が得られないだけでなく、治療前よりも悪い状態になってしまうこともあります。セラミックの治療実績が豊富な歯科医院や、噛み合わせ専門医や矯正治療の専門医が在籍する歯科医院を選ぶことで、提案される幅広い方法から最適な治療を検討することができるでしょう。
セラミック矯正がおススメな方に共通の特徴
それでは、どのような方にセラミック矯正が適しているのでしょうか。
セラミック矯正がおススメできる方の共通の特徴をご紹介します。
奥歯の噛み合わせに問題がない
セラミック矯正で治すことができるのは、主に歯の外見だけです。そのため、奥歯の噛み合わせが安定している方が、セラミックが欠けたり割れたりしづらく、長期的な安定が期待されます。
セラミック矯正は歯の移動を伴わないため、噛み合わせなど機能的な部分は改善することができません。奥歯の噛み合わせに問題があると、セラミックの破損リスクが高くなるだけでなく、将来的に顎関節症などの原因となることがあります。通常の矯正治療によって噛み合わせ全体のバランスを整えたり、ナイトガード(夜間に使用するマウスピース)を装着することで、歯ぎしりによるセラミックの破壊を予防したりすることが必要かもしれません。
骨格的に問題がない
上下の顎の骨の位置関係に問題がない場合には、セラミック矯正で前歯を治療することで、調和のとれた噛み合わせを手に入れられる可能性が高いです。
上顎前突(出っ歯)、下顎前突(反対咬合・受け口)、上下顎前突(口ゴボ)の方などは、歯並びだけではなく、骨格的に問題があるケースが多くあります。セラミック矯正による歯だけの治療では骨格のバランスの悪さを改善できません。このような場合には、通常の矯正治療で歯を動かすことによって、骨格のバランスを改善することが望ましい場合もあります。骨格の悪さを無理にセラミック矯正だけで治そうとすると、最悪の場合、歯が折れてしまうなどの、重篤なリスクが高まる可能性があります。
また顎の骨に問題がある場合は、噛み合わせの変化などで、せっかくきれいに直したセラミックが長持ちしない可能性もあります。上下の顎の骨の前後的なバランスや顎関節の状態など、治療を行う前に、歯だけではなく骨格のバランスも調べておく必要があるでしょう。
横顔のバランスが整っている
上の項目と類似しているのですが、横顔のバランスに問題がある場合、セラミック矯正ではお悩みを改善できない可能性が高いです。
上顎前突(出っ歯)、下顎前突(反対咬合・受け口)、上下顎前突(口ゴボ)など、横顔にコンプレックスを持っている方も多いのではないでしょうか。セラミック矯正は前歯の傾きを修正できる範囲に限界があるため、横顔の雰囲気を大きく改善することが難しい場合がほとんどです。こうした場合には、通常の矯正治療によって歯を動かすことで、骨格のバランスを改善することがより効果的かもしれません。
部分矯正で対応できるケースも
上に述べたような、「奥歯の噛み合わせに問題がない」「骨格的に問題がない」「横顔のバランスが整っている」方の前歯の歯並びに関するお悩みに対しては、部分矯正で対応できるケースがほとんどです。
通常の矯正治療では60〜100万円の費用が必要ですが、部分矯正であればその半分の費用で済む場合もあります。本数によっては、セラミック矯正よりも費用を抑えられるかもしれません。しかし、治療期間が数か月〜1年以上かかる場合もあるというデメリットも存在するため、慎重に検討することが重要です。また、歯の形態や色味は修正することができないことも注意する必要があります。
部分矯正とセラミック矯正を併用することで、両方のメリットを受けられる場合もあるでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。今回は、セラミック矯正がおススメされるポイントについて解説しました。
セラミック矯正は「矯正」という単語が含まれていますが、実際は矯正治療よりも補綴治療(かぶせ物など、人工歯を装着する治療)に分類されています。そのため、それぞれ特徴の違うメリット・デメリットが存在しますので、注意が必要です。
歯並びに対するコンプレックスやお口の中の状態はもちろん、かけられる時間や費用も人それぞれ異なります。知人や有名人の体験談だけでは、その治療法が自分に合っているのかどうか、判断ができない場合も多いでしょう。歯並びの治療で後悔しないためにも、歯科医院でしっかりと検査を受け、まずは現状の分析と様々な方法の提案を受けることをおススメします。
当院では、日本矯正歯科学会認定医の資格を持つ歯科医師と、日本補綴歯科学会専門医の資格を持つ歯科医師が協力して、患者様のお悩みを解決できる体制を整えています。まずは相談だけでも、もちろん可能です。お悩みや不安について、ぜひお気軽にお問い合わせください。