「抜歯が必要と言われたけど,その後の治療法はどう選べば良いの?」
「結局,インプラントがベストな治療法なの?」
突然ですが,歯が無くなってしまった部分に対する治療法で,すべての方に当てはまるベストな選択肢というのは存在しません。身長やお顔の作りが人それぞれ違うように,歯並びや噛み合わせ,噛む力など,お口の中の環境もひとりひとり異なります。また,歯を無くした部分の歯茎の状態や,隣の歯の状態なども,治療方針を決める上で重要になってくるため,治療前の検査や診断がとても重要です。
しかし,治療方法を選ぶ上で,まずは選択肢について詳しく知っておくことで,歯科医師からの説明をよりスムーズにご理解いただけるようになると思います。
ここでは,「インプラント治療を選んで後悔した」「インプラント治療を選ばなくて後悔した」ということが無いように,インプラント治療について,メリット・デメリットや歯科医院選びのポイントを解説したいと思います。
歯を失った場合の選択肢について
歯を失った後の治療は,主に“インプラント”・“入れ歯”・“ブリッジ” “歯の移植”という選択肢があります。言葉について一度は聞いたことがあるかもしれませんが,それぞれの違いについて詳しくは説明できる方は少ないと思います。選択肢を知ったうえで,まずはそれぞれについてある程度の知識が無いと正しい判断ができないでしょう。
ちなみに,“何もしない”という選択肢もありますが,“何もしない”という選択肢を選んだ際のデメリットについては,以前の記事「インプラント治療・入れ歯・ブリッジなど,歯がない部分への噛み合わせを回復する治療をおこなう前に知っておきたいこと」でご紹介していますのでぜひご一読ください。
インプラント治療とは
インプラントとは,歯が無くなった部分の歯茎と骨の内側に人工歯根と呼ばれる土台を埋め込みます。その上にセラミックなどでできた人工歯を被せることで,咀嚼機能や審美性を回復する治療法です。見た目や噛み心地が最も自分の歯と近い治療法と言われています。
もちろんお口の中の状況によるため一括りにはできませんが,当院では歯が無い部分に対しての治療方法として,インプラントを選択した場合に患者さんが受けるメリットが最も多いと考えており,一番オススメする治療法です。
インプラント治療のメリット
インプラント治療には以下のようなメリットがあります。
自然な見た目を手に入れることで,笑顔に自信が持てる
インプラントでは歯茎に人工歯根を埋め込み,その上に人工歯を被せることで見た目を回復します。そのため,ご自身の天然の歯と同じように,まるで歯茎から生えているかのような見た目を取り戻すことができます。他の治療法では,歯茎の上に歯が乗っかるような見た目になってしまうため,このようにして自然な見た目を回復できるのはインプラントだけのメリットです。
またインプラントの人工歯にはセラミックを使用している場合が多く,自然な歯の色を再現することができます。インプラントの隣がご自身の歯の場合でも,ぱっと見ただけでは区別がつかないくらいに見た目を回復することも可能で,最も審美的な治療方法と言えるでしょう。
噛み合わせを取り戻すことで,食生活を楽しむことができる
インプラントの人工歯は,直接骨に固定をされるため,食事のときにも力を発揮します。これまでの調査で,インプラントの咀嚼能率(食べ物を細かくする能力)はご自身の歯の90%程度と言われており,この数字からも自分の歯と同じように噛めることが分かります。さらに,硬い物が噛みやすいだけではなく,骨に直接刺激が加わることから噛み心地も自分の歯と同じように感じることが可能です。
食べられる物のラインナップが増えて,咀嚼能力が回復するメリットは,日々のお食事を楽しめるだけではありません。食べ物を消化しやすくなることで,胃腸の負担が減ったり,栄養状態が改善したりすることが期待できます。さらに,最近では「噛めない」「食べられない」ことが,フレイル(Frailty・虚弱)という加齢に伴う心身機能の低下状態に繋がることが注目されています。インプラントによる食生活の改善には,健康寿命を延ばすことにも繋がるかもしれません。
周りの歯の負担を減らすことで,自分の歯の寿命が長持ちする
インプラント治療では基本的に隣の歯を削ることがありません。一方,ブリッジでは土台となる歯(支台歯)を削る必要があり,また部分入れ歯でもバネをかける歯(鉤歯)に対して,バネがかかりやすいように形を整えるため歯を削ることがあります。歯が無い部分の隣が手付かずのご自身の歯の場合,全く歯を削らないインプラント治療が適していると言えるでしょう。
またブリッジや入れ歯では,支台歯や鉤歯に人工歯分の噛み合わせの力がかかるようになるため,隣の歯の負担が増えてしまいます。インプラントでは,骨が直接力を受けるため隣の歯の負担が増えることはありません。歯の負担が増えることで,歯周病や歯が割れるリスクが高まると言われています。ご自身の歯の寿命を考えると,インプラントが第一選択になるでしょう。
他の治療法に比べて,長く安定した噛み合わせが期待できる
インプラント治療の10年生存率(治療後にお口の中に残っている確率)は,世界中の多くの論文で90~95%と言われています。メンテナンスやセルフケアが上手に行われていると, 20年以上トラブルなく過ごすことができるケースもたくさんあります。他の治療法ではこれより低いものがほとんどで,このことから,インプラント治療が最も長持ちして,再治療が少ない方法と言えます。
他にも,骨というのはある程度の力の刺激が無いと萎縮して痩せてしまいます。インプラントでは噛み合わせの力が顎の骨に直接かかるため,歯が無い部分やその周りの骨が痩せにくいという特徴があります。また噛み合わせの力が維持できることから,噛む筋肉が衰えることも予防できます。顎の骨と筋肉が維持できることから,健康的な噛み合わせを長期間維持することができます。
インプラント治療のデメリット
インプラントには他の治療方法にはないメリットが多くありますが,もちろん以下のようなデメリットも存在します。
手術リスクが伴う
インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込むという特徴から,外科的な手術が避けることはできません。骨や歯茎の量が不足している場合には,追加の処置を行うことが必要となる場合もあります。手術するうえで,術後の出血や感染,神経障害などの合併症が起こるリスクも伴います。また,持病や飲んでいるお薬によっては手術が難しい場合もあるため,必要な場合には歯科医師と主治医の先生とでやり取りが必要な場合もあります。
治療期間が長期間にわたる
インプラントの手術後には,人工歯根として骨に入る部分(インプラント体と言います)が骨と結合するための治癒期間が必要です。この,インプラント体と骨との結合をオッセオインテグレーションと言いますが,通常,オッセオインテグレーションを獲得するためには2~3か月ほど待つことが推奨されています。また抜歯から必要な場合には,抜歯した周りの骨が回復する期間も必要となるため,抜歯からインプラント治療終了まで半年以上かかることもあります。ケースによっては,抜歯とインプラント手術を同時に行うことや,インプラント手術後すぐに仮歯を入れることも可能で,治療期間を短くすることができる場合もあります。
費用が高額になりやすい
インプラント治療は,原則として健康保険の対象とならないため,他の選択肢と比較して治療費が高額になります。治療だけでなく,メンテナンスにかかる費用なども事前に把握しておく必要があるでしょう。インプラント治療は医療費控除の対象となるため,気になる方はぜひ担当医にご相談ください。
セルフケアと定期的なメンテナンスが必要
またインプラントはうまくいけば10年や20年と長持ちする治療ですが,そのためには丁寧なセルフケアと定期的なメンテナンスが欠かせません。それを怠ると,インプラントの周囲の歯茎に炎症が起きてしまい,インプラント周囲炎という,歯周病のような状態になってしまいます。インプラント周囲炎が進行してしまうと,インプラント周囲の歯茎から膿が出たり,インプラントが揺れてきたりして,最悪の場合はインプラントの撤去が必要となるため,適切な維持管理が必要です。
インプラントする歯科医院を選ぶポイント
インプラントと一言でいっても,歯科医院によって取り扱いのインプラントメーカーが異なることがあります。メーカーごとに使用するパーツが違うため,治療中はもちろん治療後のメンテナンス中でも,転院が難しいことがあります。そのため,最初の歯科医院選びがとても重要です。ここでは,インプラント治療を受ける歯科医院を選ぶためのポイントを簡潔にご紹介します。
担当医の経験と技術がしっかりとしている
インプラント治療は,手術などの外科処置から,噛み合わせの調整まで,幅広い知識と専門的な技術が必要です。担当医の専門や経歴などに加えて,最新の知識にアップデートされているかも重要ですが,なかなか判断が難しいところです。まずは対応が丁寧で説明が分かりやすいかどうか,一度お話を聞いてみてください。
治療前の説明とカウンセリングを行ってくれる
インプラントの良いところばかりを説明するのではなく,まずはご自身のお口の中にどんな問題点があるか,さらに治療方針の選択肢やそれぞれのメリット・デメリット,期間や費用について,資料に基づいて説明してもらえると理解が深まります。複数の治療方針を提示して,予算などのご希望に沿った対応をしてくれる医院が望ましいでしょう。可能であれば,プライバシーに配慮されたカウンセリングルームで,時間をかけて説明してもらえると安心です。
インプラントを行うための設備と環境が整っている
インプラント治療を行う前に,骨の量だけでなく血管や神経の走行も診断できるCT撮影は必須となります。現在では,CT撮影なしにインプラント手術を行うことはまずあり得ません。可能であれば,歯が無い部分だけでなく,お口の中全体が撮影できる機種が望ましいと思います。他にも,個室の手術室や,ヨーロッパ基準のクラスB滅菌機が完備されていると衛生面でも心配いりません。
メンテナンスも含めたアフターケアが整っている
インプラントの長期間の安定のためにはセルフケアが欠かせません。そのため,手術前から歯ブラシ指導を受けて,適切なセルフケアの習慣を身に着ける必要があります。セルフケアの説明なく,いきなり手術を行う医院は注意が必要かもしれません。担当の歯科衛生士がプロフェッショナルケアを行ってくれるかどうかや,万が一のトラブルのためにも保証内容についても確認をしましょう。
リスクのある治療だからこそ,知識と経験のある担当医のもとで,CTなどの精密機器を使用して診断をしっかりと行い,分かりやすいカウンセリングを受けてから納得の上で治療に臨むことが重要です。少しでも不安がある場合は,セカンドオピニオンを受けるのも患者さんの権利です。大切なご自身の体の理解を深めるためにも,専門医によるセカンドオピニオンをぜひご利用ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はインプラント治療について,メリットやデメリット,また歯科医院選びのポイントについて解説しました。最初に記載したとおり,インプラント治療は患者さんに多くのメリットをもたらす良い治療法です。しかし,そのメリットを受けるためには費用や期間が必要ですし,デメリットやリスクも必ず伴います。デメリットやリスクを最小にして,最大限のメリットを受けるために,信頼できる歯医者さんの元でまずはカウンセリングからご相談ください。